WWF(世界自然保護基金)によると、一枚のTシャツを作るのに必要な水の量は、2,720リットルです。
農産物であるコットン(綿花)の生産現場には、多量の農薬や化学肥料による土壌汚染などの環境被害、健康や労働などの人権問題など、さまざまな問題が存在しています。
オーガニックコットンを選択することは、そうした問題を解決していく一つの意思表示になるのです。
オーガニックコットンってそもそもどういうもの?
オーガニックコットンというと、環境にもお肌にもやさしくて、赤ちゃんにも安心して使えるというイメージがあると思います。
そこで、そもそもオーガニックコットンはどういうものなのか、普通のコットンとの違いは何か、オーガニックコットンに拘るべき理由について深堀りしていきたいと思います。
日本オーガニックコットン協会によると、オーガニックコットンは、オーガニック農産物等の生産方法についての基準に従って2 ~ 3 年以上のオーガニック農産物等の生産の実践を経て、認証機関に認められた農地で、栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた綿花のことです。
オーガニックというと、無農薬のイメージがありますがそうではないんですね。天然物や、天然物由来の一部の農薬に限り使用を認められているからです。要するに、合成化学物質を使用せず厳格な基準を守っていること、そして第三者の認証機関にその事実を認証されることで、初めて「オーガニック」を謳えるということです。
では、オーガニックコットンと認証されるためには、どんな基準をクリアにする必要があるのでしょうか。
- 3 年以上のオーガニック農産物等の生産の実践を経ていること
- 認証機関に認められた農地であること
- 栽培に使われる農薬・肥料の厳格な基準を守って育てられた綿花であること
上記のような基準をクリアし、客観的な審査の元に初めてオーガニックコットンの表示ができるようになります。
とても厳しい条件ですよね。
オーガニックコットン製品とは
上記のように栽培されたオーガニックコットンを使って作られたものを、オーガニックコットン製品と呼んでいます。コットンは紡績、織布、ニット、染色加工、縫製などの製造工程を経て最終製品となりますが、オーガニックコットン製品は、その全工程において次のような基準を守る必要があります。
- オーガニック原料のトレーサビリティ確保
- 化学薬品の使用による健康や環境的負荷を最小限に抑えていること
- 労働の安全や児童労働など社会的規範を守って製造したもの
ここで少し気になるのは、3番目の「労働の安全や児童労働など社会的規範を守って製造したもの」という基準です。何故このような基準が設けられているのでしょうか。
普通のコットンの何が問題?
コットンは綿花を育てて作られる繊維ですが、栽培するにはとても手間がかかります。
コットンと聞くと、天然の繊維素材なので、化繊とは違ってお肌や環境によいイメージを持ちませんか?しかし綿花は麻にくらべると害虫に弱いので、大量の化学肥料と農薬が使われています。
さらに栽培効率を上げるための化学肥料、殺菌剤、除草剤、実がはじけた後の落葉剤と様々な薬品が使われているのです。
特に問題となっているのが殺虫剤です。
綿花の耕作地は世界の耕作地のうち、わずか2.5%。それに対して世界の殺虫剤の約16%、農薬全体の7%が綿花の畑に対して使われているのです。
農薬は害虫駆除、雑草の管理、防カビや殺菌消毒、収穫前の落葉剤などで、国ごとに厳しい規制が設けられていますが、それでも環境や農家の人たちの健康に影響を与えます。
また過剰な化学肥料が土壌に残ると地下水の汚染、土壌微生物の消滅などにより、作物を育てる土壌の力が減少します。
■産地が受けている弊害■
綿花の栽培地域は「コットンベルト」と呼ばれていますが、発展途上国が多いのが実情です。そうした産地では、様々な弊害が出ていることをご存じでしょうか。
健康被害 農薬への知識が乏しいため、防護服やマスクを使わず農薬や殺虫剤を散布しています。
それにより、めまいや倦怠感、吐き気、口内麻痺といった健康被害が出ています。
土壌汚染 過剰な化学肥料が土壌に残ると地下水の汚染、土壌微生物の消滅などにより、作物を育てる土壌の力が減少します。
発展途上国の人権問題 栽培前に農民が借金をして、遺伝子組み換えの種や農薬を購入しなければなりません。
地下水の枯渇 コットンは灌漑によって地下水をくみ上げることでを収穫量を増やしています。
児童労働 子供たちが学校で教育を受けずに、労働者として農業に駆り出されています。
オーガニックコットンは栽培から収穫まで環境にやさしい
■栽培
オーガニックコットンは殺虫剤はもちろん、農薬や化学肥料の使用も厳しく制限されているため、普通のコットンよりも多くの手間をかけて育てる必要があります。
上述したように、綿花は害虫に弱い作物です。殺虫剤を使わずに害虫を減らすには、さらに多くの手間がかかります。
オーガニックコットンの畑では殺虫剤の代わりに、トウモロコシなどの雑穀を植えます。そこでテントウムシなどの益虫を増やし、害虫を退治してもらいます。もちろん化学肥料は使いません。その代わり、牛糞や堆肥などの有機肥料を使い、土壌を豊かに改良していきます。除草剤は使わずに、耕運機で土を掘り起こして雑草も土壌の栄養とするのです。
■収穫
通常のコットンは綿花を収穫する前に、落葉剤を散布します。これは綿花の摘み取りの際、葉が混じると綿花に葉の色が付き、商品価値が下がってしまうからです。
それを防ぐため、落葉剤を巻いて葉っぱだけを枯らし、綿花だけを摘み取りやすくなります。しかし撒かれた落葉剤は摘み取り作業をする方や、選別作業をする方などの体、そして周辺の自然環境にも影響を与えてしまいます。
オーガニックコットンの畑では、落葉剤は使いません。
水を減らし、霜によって自然に葉が落ちるのをまってから収穫します。収穫までに時間も手間もかかりますが、その分、人の体にも自然にも安心なのです。
■水資源
一般的にあまり知られていませんが、普通のコットンの栽培には遺伝子組み換えの種が使われていて多くの水を必要とします。2017年の「テキスタイル・エクスチェンジ*」の報告によると、オーガニックコットンに必要な「ブルーウォーター(河川・湖沼の水)」の量は、普通のコットンに比べて91%も少ないのです。
「ほとんどのオーガニックコットンは小規模農家で栽培されており、灌漑水よりも天水に頼る傾向にあります。合成の農薬や肥料を使わないため、それほど水を使わなくて済むのです」(テキスタイル・エクスチェンジの欧州・原材料戦略担当ディレクター、リーズル・トラスコット氏)
オーガニックコットンの育成には、より多くの水を要する遺伝子組み換えコットンは使われない上に、無農薬の土壌であれば、生産段階の水効率が比較的高いことも環境にやさしい点です。事実、オーガニックコットン栽培に使われる水の95%が、グリーンウォーター(雨水や土壌に蓄えられた水)です。
*テキスタイル・エクスチェンジ オーガニックコットン衣料および家庭用繊維製品の世界的規模の売上促進を目指す非営利団体
更に、2011年の「ウォーター・フットプリント」の報告書によると、従来のコットンではなくオーガニックコットンを栽培する場合は合成化学物質の農薬や肥料を使わないため、水質汚染を98%も抑えることができると言います。
■温室効果ガス排出量
「テキスタイル・エクスチェンジ」によると、オーガニックコットンは二酸化窒素を放出する肥料や農薬だけでなく、さほど機械化農業に頼る必要がありません。その意味で、温室効果ガスの排出量が46%も少ないのです。また、無肥料・無農薬であるために、土壌は「二酸化炭素吸収源」として機能し、大気中の二酸化炭素を吸い取ってくれる効果もあります。
オーガニックコットンと普通のコットンの違いは?
実は、収穫されたコットンを科学的にテストしたとしても、オーガニックコットンと普通のコットンを判別することはできません。つまり、収穫されるコットンそのものは、オーガニック綿でも普通の綿でも変わりはないということです。
では、どうやってオーガニックコットンかどうかを知ることができるのでしょうか。
それを可能にしてくれるのがオーガニック認証機関です。
認証機関では栽培している畑をチェックし、農地管理や栽培方法を調べ、オーガニック基準に沿った管理の元で栽培・収穫しているかを確認します。
重要なのは、一度認証を受けた後でも、毎年専門の検査員が農場を訪れて、継続して基準どおりに管理しているのかを確かめます。
また、トレーサビリティが確保されているので、オーガニックコットンの製品は、調べれば、いつ、どこでとれた綿を使っているのかが分かるようになっています。
コットンというと「白」のイメージがありますよね。しかし綿花が持つもともとの色は、うっすらと茶色がかかったアイボリーで、白ではありません。
真っ白なコットンは、化学的な漂白剤を大量に使って作られることがあります。
こう聞くと、オーガニックコットンと表示されているものであればきちんと環境に配慮して製品加工されていると思うかもしれません。
しかし、オーガニックコットンは栽培基準である「オーガニック・ファーミング認証」は国定基準なのに対し、製品加工を行う「テキスタイル認証」の基準は、民間の基準組織が策定しています。
そのため、すべてのオーガニックコットン製品が、環境に配慮しているとは断言できないのが現状です。
どんな認証があるの?
オーガニックコットンの認証は大きく分けて2種類あります。
「オーガニック・ファーミング認証」と「テキスタイル認証」です。
オーガニック・ファーミング認証 畑から原綿まで、農薬や化学肥料を使わず綿花を栽培していることを確認するもの(農業分野)
テキスタイル認証 紡績から製品まで、原料のオーガニック繊維が正しく使われていることを確認するもの(製造加工分野)
農業分野のオーガニック認証の元になる基準は、それぞれの国や地域が定めたオーガニック農産物等の生産方法についての基準が使われます。貿易上の観点から、CODEXという国際機関がオーガニック農産物などのガイドラインを定め、これに調和するためWTOに加盟している各国が国定の基準を定めたのです。認証作業を担当する認証機関はそれぞれの国が資格認定をし、認証実施の資格を与えます。
一方、テキスタイル分野のオーガニック認証の基となる基準はすべて民間の基準組織が策定しています。オーガニックテキスタイルの基準で国定のものはありません。加工用ケミカルの使用に細かい区分をするテキスタイルは小回りの利く民間組織が対応しやすいと言えます。
認証作業を担当する認証機関は、ISO などの規定に基づく国際的な資格認定機関による資格認定と基準策定機関の承認を受けています。
日本では「オーガニックコットンに係る表示ガイドライン」が中小企業基盤整備機構から発表されていて、製品にオーガニックコットンの表示をする事業者はトレーサビリティーを確保することが求められています。
オーガニックコットンのテキスタイル認証については、大きくふたつの考え方があります。
ひとつ目は、せっかく環境に配慮して育てられたオーガニックコットンなのだから、製品にする時も環境負荷が少なくなるよう配慮すべきという考え方です。
もうひとつはオーガニックコットンを一定量使えば、製造加工方法は問わないというもの。
地球環境や使う方のことを考えれば、製品加工時も環境に配慮したものを選びたいところ。その場合は、「GOTS(オーガニック・テキスタイル世界基準)」の認証を受けたものを選ぶことをおすすめします。
GOTS(オーガニック・テキスタイル世界基準)とは
GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)は、代表的な国際基準策定機関によって、原料の収穫から環境に優しく社会的に責任のある製造を経て、消費者に信頼できる保証を与えるラベリングに到るまで、「繊維製品が正しくオーガニックである」という状況を確保する世界的なルールを定めるために開発されました。
毒性のある重金属やホルムアルデヒド、芳香族溶剤、遺伝子組み換え技術を使用した生物や酵素の使用禁止や、塩素系漂白の禁止、発がん性のある染料を禁止するなど、環境や安全性に配慮した基準を満たした製品にのみ認証されます。
オーガニック繊維の消費の成長と、オーガニックに関する統一した判定基準が必要であるとする製造業者や小売業者からの強い要望により、GOTSはすでに世界的な評価を得ています。
GOTSは、オーガニック繊維から作られた繊維製品を供給する加工業者と製造業者のために、世界の主要なマーケットに受け入れられる「オーガニックの認証」を可能にしています。GOTSは、オーガニック繊維製品が、消費者の信頼を得るために必要な国際的な認証システムとして、世界の繊維製品生産流通の業界で認められつつあります。
オーガニックコットンのデメリット
さて、ここでオーガニックコットンのデメリットを見ていきましょう。
デメリットは大きく2つあります。
1.価格が高い
2.手入れに注意が必要
価格が高い
オーガニックコットンは栽培や加工に手間がかかるため、普通のコットンよりも価格帯が高めです。
手入れに注意が必要
オーガニックコットンの中でも、テキスタイル認証を受けて製品加工時にも化学薬品を使わずに作られているものは、お手入れにも注意が必要です。
染色や漂白をしていないコットンの色は、漂白剤や蛍光剤が入った洗剤を使うと変色する場合があります。特に塩素系の漂白剤は、汚れ落ちはよいものの、せっかくのオーガニックコットンの風合いを損ねてしまうことがあるのです。
オーガニックコットンをお手入れする時は、石けんを使用して洗濯するのがよいでしょう。ネットに入れると毛羽立ちを防止できます。
洗濯後は風通しの良い日陰に干します。乾燥機は生地を傷める、縮みの原因になるので避けましょう。また天然染めの製品は色移りする可能性があります。洗濯時には他の物と分けて洗うようにしましょう。
オーガニックコットン製品を選ぼう
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
いかがでしたか。
ただ漠然とオーガニックコットンはお肌や環境にいいものだと思っていた方も多いのではないでしょうか。
普通のコットンと何が違うのかを知ると、多少高くてもオーガニック製品を選択したくなりませんか。
一応デメリットもあるので、しっかりと考えて、自身にとって最適だと思う選択をしたいものです。
オーガニックコットンは環境に優しく、安心して使うことのできる素材です。栽培時だけでなく、テキスタイル加工時にもオーガニック認証を受けているなら、肌に優しくより安心して使えます。栽培や加工に手間がかかる分、普通のコットンよりも価格帯が高くなりがちです。
ただ、覚えていてほしいのは、生産されている全コットンのうち、オーガニックの割合は1%にも満たないということ。この数値を改善していくことは十分可能だとは思いませんか? 生産する側の「つくる責任」、買う側の「つかう責任」を考えて行動することが大切です。
消費者として私たちにできること
1.認定団体からのお墨付きがあるかどうかを調べる
商品を選ぶ際には、「OCS(オーガニック・コンテント・スタンダーズ)」や「GOTS(グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード)」のような認定団体からのお墨付きがあるかどうかを調べましょう。また、フェアトレード・ファンデーションの認証ラベルがついている商品であれば、栽培農家が最低限必要な賃金をきちんと得られている、ということも分かります。
「消費者がオーガニックコットンに高い値段を支払ったとしても、農家がその分高い賃金を得られる、というわけでは必ずしもないのです」(フェアトレード・ファンデーションのコットン・テキスタイル上級リーダー、スビンドゥ・ガーケル)。
2.再生ポリエステルのような合成繊維と混紡されたコットンは避ける
天然繊維に合成繊維を混紡すると、再分解・再生産するのが非常に困難になってしまいます。
オーガニックコットンは再生可能な原料なので、着古したオーガニックコットン製の服でもリサイクルは可能です。厳密に言うと、未処理であれば生分解も可能です。ですが、現状では技術的に改良が必要な段階。機械的に再生すると、繊維の長さが短くなりがちで、つまりは質が低下してしまうのです。コットンをケミカルリサイクル(素材を化学的に分解して組成変換した後にリサイクルすること)して繊維素に分解し、ビスコースのような製品にすることも可能ですが、定着するのはまだこれからです。
3.オーガニックへの転換に注力しているブランドを支持する
先陣を切ってオーガニック、エシカルというポリシーを貫いてきているファッションブランド「ステラ・マッカートニー」をはじめ、ハイブランドからスタートアップ企業まで、業種業界を越えた様々な作り手が試行錯誤しながら環境に配慮した商品を提供しています。そうした企業努力は今後も必要です。そして、消費者である私たちは、そうした商品を買うことで環境保全に微力ながら貢献できるのです。
私たちの地球が持続可能であるためにも、一つでも多くのオーガニックコットン製品を選択したいものです。
参考サイト
日本オーガニックコットン協会 「オーガニックコットンとは」「オーガニックコットンとGOTS認証」
VOGUE 「オーガニックコットンは本当にサステナブル? 専門家たちの回答。【サステナビリティ最前線】」